日本人の平均寿命の長さが更新され続けている昨今、「健康であること」への意識はさらに高まりつつあります。今回は、皆さんも一度は聞いたことがあるであろう「セルフメディケーション」についてご紹介します。
きっとほとんどの方が、普段の生活の中でセルフメディケーションを行っているはずです。セルフメディケーションとは何か、メリットやその方法、2022年から改正された「セルフメディケーション税制」についても解説。正しく上手にセルフメディケーションを実践するためのコツをお伝えします。
セルフメディケーションとは?
セルフメディケーションとは、直訳すると「自己治療」「自主服薬」。WHOでは、セルフメディケーションの定義を「自分自身の健康に責任をもち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」としています。
皆さんは、頭痛がするときや転んでヒザを擦りむいたとき、風邪かな?と思ったときなど、都度病院に行って診察を受けますか? そんなとき、市販の頭痛薬を服用する、消毒して絆創膏を貼る、栄養のあるものを食べていつもより早く寝る、といった対処をしている方。まさにそれが、セルフメディケーションにあてはまります。
セルフメディケーションのメリット
軽度の体調不良であれば処方箋がなくても購入できる市販薬を利用する、病気の予防や体調管理を行い自分の健康は自分で守る、というのがセルフメディケーションの考え方。セルフメディケーションは、自分自身の身体にはもちろん、日々の健康意識や家計の節約にもよい効果があります。
- ●自分自身で健康管理を行う習慣ができる
- ●医療や薬の知識が身につく
- ●病気の発症予防に役立ち、医療機関を受診する時間や手間・費用が減る
- ●通院が減ることで、国民医療費の削減につながる
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国がセルフメディケーションを推進
セルフメディケーションは国の政策としても推進されており、2017年には「セルフメディケーション税制」が施行されました(後述参照)。この税制は従来の医療費控除制度の特例として2021年までの期限付きの制度でしたが、2022年に5年間延長され、2026年末まで適用されることになりました。その背景には、保険診療の対象となる国民医療費の増加があります。
厚生労働省によると、2021年度の国民医療費は45兆359億円で、前年2020年度の42兆9,665億円に比べて2兆694億円と、4.8%の増加。人口一人当たりの国民医療費は35万8,800円で、前年度の34万600円に比べて1万8,200円、5.3%の増加となりました。年々増加する国民医療費は、2040年度にはなんと76.3兆円となる見通しで、将来を見据えた社会保障給付の持続が大きな課題となっています。国としては、国民一人ひとりの健康づくりを推進しつつ、限りある医療資源を有効活用したいという狙いがあります。
セルフメディケーションの取り組み方
セルフメディケーションは「セルフ」という言葉通り、「自分自身」で健康を守ることが重要です。日頃から積極的に自身の健康管理にかかわり、軽い不調は自分で手当てする、そのためにできる実践のポイントを見てみましょう。
①病気や薬についての正しい知識を身につける
インターネットなどの情報は発信元を確認し、省庁などの公的機関や大学病院など、信頼できるサイトから情報を集めるようにしましょう。わからないことは医師や看護師、薬剤師などの専門家に相談することも大切です。
②健診を毎年受けて自身の身体をチェックする
自分の身体を知っておくことこそ、セルフメディケーションの基本。毎年必ず健診を受け、健診結果の確認をしましょう。自宅でも体重や体脂肪、血圧などを測定すると自身の体調を把握でき、また日々の健康意識が高まります。
③規則正しい生活で自然治癒力を高める
定期的な運動習慣や栄養バランスのよい食事、十分な睡眠や休息をとるなど、規則正しい生活を送ることで、もともと身体に備わっている自然治癒力を上げましょう。
④OTC医薬品を利用する
頭痛や風邪、腹痛、軽いけがなどのちょっとした体調不良の際は、薬局やドラッグストアなどで購入できる市販薬(OTC〔Over The Counter:カウンター越しに薬を購入する〕医薬品)を利用しましょう。なお、普段感じたことのない痛みや不調、OTC医薬品を利用しても改善しない場合は、速やかに医療機関を受診してください。
セルフメディケーション税制の活用
厚生労働省指定のOTC医薬品を一定額以上購入した場合、所得控除を受けられることがあります。セルフメディケーション税制を活用すれば、本人または生計を同じくする家族がOTC医薬品を購入した際の年間合計額が税込1万2,000円を超えた場合(上限8万8,000円)、翌年に確定申告を行うことで所得控除を受けられます。
対象期間 |
各年1月1日~12月31日の1年間 |
対象額 |
1万2,000円以上 |
上限額 |
8万8,000円 |
対象 |
厚生労働省指定のOTC医薬品のみ 対象商品のパッケージについている識別マーク
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対象者 |
- ・所得税および住民税を納めていること
- ・現行の医療費控除を利用していないこと
(医療費控除とセルフメディケーション税制の併用は不可)
- ・特定健康診査、予防接種、定期健康診断、健康診査、がん検診のいずれかを受けていること
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申告時に必要なもの |
- ・セルフメディケーション税制の明細書
(確定申告書に添付)
- ・レシートまたは領収書、源泉徴収票など
(申告時の提出不要、5年間補完の義務あり)
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対象となるのはすべてのOTC医薬品ではなく、厚生労働省が指定する特定のOTC医薬品です。対象商品の多くはパッケージに識別マークがついており、また厚生労働省のホームページの対象品目一覧でも確認できます。
2022年にセルフメディケーション税制が延長・改正された際、確定申告での手続きが簡略化され、対象となる医薬品数も大幅に増加しました。医療費の合計額が10万円を超えないと控除が受けられない医療費控除と比べると、セルフメディケーション税制は特定のOTC医薬品1万2,000円以上の購入で申告できます。年間の所得額から控除されて課税対象となる金額が下がるということは、結果的に住民税も減額となります。上手に活用して、家計にもセルフメディケーションにも役立てましょう。
セルフメディケーションの注意点
「自分自身」で行うからこそ、セルフメディケーションには注意が必要です。わからない場合は自己判断せず、薬剤師や医師など専門家に相談し、指導を受けましょう。
薬を正しく使用する
OTC医薬品を使用する際は必ず説明書を読み、正しい用法、用量を守りましょう。薬を服用する際に必ず水かぬるま湯を用いるのは、例えばお茶ではカテキンが、牛乳ではカルシウムなどが作用して、薬の成分を吸収させにくくする場合があるからです。誤った使用法は症状を悪化させることもあるため、正しく使用しましょう。
かかりつけ薬局、かかりつけ薬剤師をもつ
病気のときは薬剤師や医師に相談し、必要な際は医療機関を受診してください。近所にかかりつけ薬局やかかりつけ薬剤師をもっていると、例えばOTC医薬品を購入する際にどの薬を選べばいいかわからない、処方薬とOTC医薬品の飲み合わせが心配、病院に行くほどではないが不安がある、といった場合などに気軽に相談できて安心です。
<参考文献>
・厚生労働省:令和3(2021)年度 国民医療費の概況.2023
・厚生労働省:「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」等について.(参考)医療費の将来見通し.2018
・厚生労働省ホームページ:セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について
・国税庁ホームページ:セルフメディケーション税制とは.
・東京法規出版:Let’sセルフメディケーション.2022
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